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企業案件を受ける前に、
鍼灸師が揃えておくべきもの

鍼灸師向け
企業案件に必要な書類や備品を整えるイメージ

企業から「社員向けに施術をお願いできませんか」と声がかかったとき、いちばん困るのは技術の問題ではありません。相手が法人であるがゆえに、施術以外のところで求められる書類と体制が一気に増えることです。

しかも法人側は、鍼灸業界の慣習を知りません。「保険は入っていますか」「請求書はいただけますか」「使用済みの鍼はどう処理されますか」といった質問が、悪気なくまっすぐ飛んできます。ここで答えに詰まると、技術の評価以前に検討から外れてしまうこともあります。

依頼が来てから慌てないために、あらかじめ揃えておきたいものを整理します。

1 資格を証明するもの

はり師・きゅう師の免許証は、写しの提出を求められる前提で用意しておきます。企業によっては、外部の人を社内に入れる際の審査書類として、総務部が正式に保管します。

原本をスキャンしたPDFを手元に持っておくと、依頼のたびに探す手間がなくなります。ほかに保有している資格があれば証書も同様に。企業側は「何ができる人なのか」を社内で説明する必要があり、その材料として資格一覧を求めることがあります。

2 保健所への届出

見落としやすいのがここです。施術所を持たず出張のみで業務を行う場合や、施術所とは別に出張業務を行う場合には、住所地を管轄する保健所への届出が必要になることがあります。

企業のオフィスに出向いて施術を行う場合も、事前確認が必要です。届出の要否や名称、様式は自治体によって運用が異なるため、管轄の保健所に「企業へ出向いて社員に施術を行う予定がある」と具体的に伝えて確認してください。

3 賠償責任保険

保険に加入していても、補償範囲が出張施術や企業案件をカバーしているとは限りません。主に次の点を確認します。

  • 施術所外での施術が補償対象に含まれるか
  • 身体賠償だけでなく、企業設備などの財物賠償も含まれるか
  • 契約先法人を追加被保険者として扱う必要がある場合に対応できるか

業界団体経由の保険には施術所内での業務を前提にしたものもあります。証券を読み直すか、代理店へ「企業への出張施術を行う」と伝えて確認するのが確実です。加入証明書も提出できる形にしておきましょう。

4 使用済み鍼の処理体制

使用済み鍼の取り扱いは、法人担当者から実際に質問される項目です。オフィスで施術した場合、その場に置いてくることはできません。携行用の耐貫通性容器で安全に回収・密閉し、適切な廃棄フローへ乗せる必要があります。

処理業者との契約やマニフェストの運用を含め、現在の廃棄体制で企業案件に対応できるかを事前に確認してください。

5 請求まわりの体制

法人取引では、口頭で金額を決めて現金で受け取る進め方はほとんど通りません。開業届、発行者情報・請求日・支払期日・振込先を記載した請求書の様式、インボイス登録の有無を整理します。

インボイス登録の要否は事業の状況により異なります。判断に迷う場合は、税理士や商工会議所などの相談窓口へ確認してください。支払いが「月末締め翌月末払い」のように後ろ倒しになることも織り込んでおきます。

6 契約書

企業側が雛形を用意することも、こちらが提示を求められることもあります。最低限、次の条項を確認します。

  • 業務の範囲 施術だけか、事前説明や報告書作成まで含むか
  • 報酬と交通費 どちらが負担するか、実費か報酬込みか
  • 秘密保持 社内で知り得た情報をどう扱うか
  • 中止・キャンセル 企業都合で中止となった場合の取り扱い
  • 再委託の可否 別の施術者を立てられるか

特に重要なのが契約形態です。企業へ出向く働き方は、指揮命令の実態などにより業務委託にも労働者派遣にもなり得ます。両者は法律上の位置づけが異なります。契約書の名称だけでなく、当日の運用まで含めて確認し、必要に応じて専門家へ相談してください。

7 名刺とプロフィール

企業担当者は、鍼灸師を社内で紹介するための材料を必要としています。保有資格・経歴・対応できる仕事を200字程度にまとめた文章と、使用許可を明確にした顔写真を用意しておくと、社内告知やイントラネットへの掲載が進めやすくなります。

担当者が一から文章を作ると、事実と異なる表現や、法令上使えない表現が混ざる可能性があります。自分で確認した素材を先に渡しておくほうが安全です。

8 表現のライン

社内告知文や当日の説明で使う言葉にも注意が必要です。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律により、広告できる事項は限定されています。特定の症状が治る、改善するといった表現は避けなければなりません。

「治ります」と断定するのではなく、「東洋医学ではこのように捉えます」「このような考え方があります」と、事実や学問体系を紹介する表現にとどめます。

企業担当者が作った告知文に効能効果を示す表現が入っていた場合、こちらから修正を申し出る。これができる施術者は、法人から見ても安心して相談できる相手です。

まとめ

企業案件で問われるのは、技術に加えて「法人と取引できる体制が整っているか」です。免許・届出・保険・廃棄物・請求・契約。どれも派手ではありませんが、ここが揃っているかどうかが継続的な依頼につながります。

依頼が来てから準備を始めると、返事までに時間がかかります。その間に企業は別の候補者を探し始めるかもしれません。まずは手元の書類と契約を、一度棚卸ししてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。届出、税務、契約、廃棄物処理などの具体的な判断は、管轄行政機関や各分野の専門家へご確認ください。

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