HEALTH MANAGEMENT
健康経営会議2026に参加して
国が示した方向と、企業が2026年10月までに決めるべきこと
執筆:濱田文恵(はり師・きゅう師、国際中医師、国際中医薬膳師)

2026年9月16日、「健康経営会議2026」に参加しました。経済産業省、厚生労働省、スポーツ庁、農林水産省の担当官が、それぞれの施策を同じ場で説明する会です。
本記事では、当日配布された各省庁の資料をもとに、企業の健康経営ご担当者が押さえておくべき内容を整理します。記載した数値・文言は、公表資料に基づくものです。
この記事の要点
- 健康経営優良法人2027の申請締切は、大規模法人が10月9日、中小規模法人が10月16日です。取り組みの対象期間は設問ごとに異なるため、申請書と判断基準を確認しましょう。
- 経済産業省は「テーマ別ベストプラクティス」として5つのテーマを示しています。女性の健康、両立支援、睡眠、高年齢従業員、その他。
- 2026年4月から、高年齢者の労働災害防止措置が事業者の努力義務になりました(労働安全衛生法第62条の2)。健康経営とは別の法令ですが、実際の施策としては重なります。
会議で最も印象的だったこと
4つの省庁が、それぞれ別の制度を持ちながら、「健康経営」という一つの入口に施策を寄せてきていることです。
経済産業省は健康経営優良法人という顕彰制度を、厚生労働省は健康日本21(第三次)と「攻めの予防医療」を、スポーツ庁は運動を「健康インフラ」として位置づける第4期スポーツ基本計画を、農林水産省は「大人の食育」と食育実践優良法人顕彰制度を説明しました。
そして、これらは独立していません。健康経営優良法人の「テーマ別ベストプラクティス」の選定では、スポーツ庁のスポーツエールカンパニー、農林水産省の食育実践優良法人、くるみん・えるぼしといった他省庁の認定取得が加点要素になります。食育実践優良法人2027にいたっては、「健康経営優良法人2027に申請している、もしくは申請予定であること」が認定要件そのものです。
企業から見れば、認定を1つずつ別々に取りにいくだけでなく、設計次第で相互に活かせるということです。
Q. なぜ2026年10月が分岐点なのか
令和8年度の健康経営度調査のスケジュールが、この時期に集中しているためです。
| 期限・時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年10月9日(17時) | 健康経営度調査(大規模法人部門) |
| 2026年10月中 | テーマ別ベストプラクティス エントリー |
| 2026年10月16日(17時) | 健康経営優良法人 認定申請(中小規模法人部門) |
| 2026年10月30日 | 食育実践優良法人2027 申請 |
| 2027年2月 | 内定 |
| 2027年3月 | 健康経営銘柄・健康経営優良法人の発表 |
今年度の申請に向けては、締切だけでなく、設問ごとに定められた取り組みの対象期間を確認する必要があります。これから始める施策が今年度の評価対象になるとは限りません。まずは既存の取り組みと記録を整理し、今年度の申請と来年度以降の施策づくりを分けて進めることが大切です。
Q. 「テーマ別ベストプラクティス」の5テーマとは
経済産業省が「政策的観点から企業への取組を促したい」と明示しているテーマです。
- 女性の健康保持・増進に向けた取組
- 仕事と介護・治療・子育ての両立支援の取組
- 睡眠の質向上に向けた取組
- 高年齢従業員に配慮した健康づくりや職場環境整備の取組
- その他(1〜4に当てはまらない取組)
選定されるのは大企業10社・中小企業40社。審査基準は先進性・横展開の可能性・実効性の3つです。中小規模法人の前提要件は「ブライト500申請法人であること」、大規模法人は「経営理念・方針」と「評価・改善」のスコアがいずれも偏差値60以上とされています。
実務上の意味は、選ばれるかどうかよりも、この5つが国の関心の所在を示しているという点にあります。自社の施策をこの5テーマの言葉で棚卸しすると、どこが空白かがはっきりします。
Q. 高年齢従業員への対応は、なぜ今年から変わったのか
2025年の法改正により、労働安全衛生法に第62条の2が新設され、2026年4月1日から施行されました。高年齢者の労働災害防止措置が、事業者の努力義務として明記されています。
あわせて、大臣指針が2026年2月10日に公示されました。この指針には、次のような記載があります。
「主に高年齢者を対象とした体力チェックを継続的に実施することが望ましい」
「集団及び個々の高年齢者を対象として、身体機能等の維持向上のための取組を実施することが望ましい」
一方、厚生労働省の調査では、60歳以上の従業員がいる事業所のうち、労働災害防止対策に取り組んでいるのは20.4%にとどまります。取り組んでいない理由の最多は「自社の60歳以上の高年齢労働者は健康である」で54.4%。資料自身が「身体機能の低下による労働災害のリスクへの理解が進んでいない」と指摘しています。
実際には、雇用者に占める60歳以上の割合が19.6%であるのに対し、労働災害による死傷者数に占める割合は31.3%。この差は年々開いています。
健康経営の文脈でも、労働安全衛生の文脈でも、高年齢従業員への対応は、今年から一層重視される領域になったと考えています。
Q. 「専門職の関与」という評価項目を、どう埋めるか
健康経営度調査の評価項目は約180問あり、5つに分類されています。
- 経営理念(経営トップのコミットメント、社内外への発信)
- 組織体制(経営層が参加する体制の構築、専門職の関与、健康保険組合との連携)
- 制度・施策実行(計画の策定、土台作り、施策の実施)
- 評価・改善(取組の効果検証と改善)
- 法令遵守・リスクマネジメント
このうち「専門職の関与」は、産業医や保健師を想起されることが多い項目です。ただし評価されているのは体制であって、何らかの効果の約束ではありません。どの専門職が、どのような位置づけで健康づくりに関与しているか。その設計と記録が問われています。
なお、評価対象となる専門職や関与の内容は、各設問の定義に従います。国家資格を保有していることだけで要件を満たすわけではなく、鍼灸師の関与がそのまま認定要件に該当することを意味するものではありません。
施策を実施していても、誰がどう関与しているかを書面化していないために調査票で書けない、という場合があります。施策の追加より先に、すでにやっていることの棚卸しのほうが効く場合があります。
Q. 認定を取ると、実際に何が変わるのか
経済産業省の資料には、次の数値が示されています。
- 離職率:健康経営銘柄2026が3.4%、ホワイト500(銘柄除く)が4.4%、健康経営優良法人2026が6.0%。参考値として全国平均は11.4%
- 中小企業の離職率:ブライト500・ネクストブライト1000が9.0%、従業員30〜99人企業の平均が14.0%
- 中小企業の売上:3年連続ブライト500認定企業の売上成長率の中央値が年約4.4%、中小企業全体は0.1%
ただし資料には、離職率に関する設問は健康経営度調査の評価には含まれていない旨の注記があります。認定が離職率を下げたのか、離職率の低い企業が認定を取っているのか、この数値だけでは判断できません。相関であって因果ではないという前提で読む必要があります。
制度上のメリットとして、資料では次の例が紹介されています。
- 中小企業向け9つの補助金で、認定事業者に審査加点
- 日本政策金融公庫「働き方改革推進支援資金」の特別利率。2026年4月からネクストブライト1000も優遇対象に追加
- ハローワークインターネットサービスの求人票でロゴマークが使用可能
- 自治体の公共調達加点70件、その他の自治体インセンティブ30件、銀行等の融資優遇100件(2026年6月時点)
各制度には対象要件や審査があります。利用を検討する際は、最新の公募要領や金融機関・自治体等の窓口で適用条件をご確認ください。
認定法人で働く従業員は1,094万人、日本の被雇用者の約18%にあたります。採用市場において、すでに「持っていないこと」が見える段階に入りつつあるというのが率直な印象です。
Q. 数年先を見据えて、今から備えるべきことは
会議で最も注目したのは、次の記述でした。
「質を担保したヘルスケアサービスを明確化するとともに、健康経営や保健事業、民間の健康増進型保険等へ組み込み(健康経営制度の評価に含めるあり方も検討)」
経済産業省の資料にも、「経済損失の大きい性差に基づく健康課題等に対し、一定の質を担保したヘルスケアサービスのリストを創出する」という記載があります。
つまり、これから数年のうちに「健康経営の評価対象になるサービス」と「ならないサービス」の線引きが進む可能性があるということです。あわせて、健康経営度調査そのものの民間への機能移管、「健康経営に関する情報開示の指針(仮称)」の年内策定も示されています。
企業側の備えとしては、外部サービスを選ぶ際に「誰が、どんな資格で、どういう基準で選ばれて関与しているのか」を説明できる状態にしておくこと。制度が変わったときに説明責任を果たすための土台になります。
まとめ:今週、確認したい3つ
- 調査票の空欄を確認する。施策を増やす前に、すでに実施していることが書けているかを見る。特に「組織体制」の欄。
- 5テーマで棚卸しする。女性の健康、両立支援、睡眠、高年齢従業員。自社の施策をこの言葉に置き換えたとき、どこが空くか。
- 高年齢従業員の項目を確認する。2026年4月の法改正は、健康経営とは別ルートで効いてきます。
出典
- 経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」(令和8年9月16日)
- 厚生労働省 健康・生活衛生局健康課「健康日本21(第三次)の推進に向けて」(令和8年9月16日)
- 厚生労働省 保険局保険課「健康保険組合と創る攻めの予防医療」(2026年9月16日)
- スポーツ庁 健康スポーツ課「運動・スポーツを活用した健康経営の推進に向けて」(令和8年9月16日)
- 厚生労働省 労働基準局安全衛生部安全課「働く人の安全と健康の確保に向けて(高年齢者の労働災害防止対策)」(令和8年9月16日)
- 農林水産省 消費・安全局消費者行政・食育課「大人の食育〜食育実践優良法人から考える健康経営〜」
本記事は2026年9月17日時点の情報です。申請対象期間・要件や各制度の利用条件は、最新の公式資料をご確認ください。認定取得や制度上の優遇を保証するものではありません。
最新情報:健康経営優良法人2027の申請受付 / 高年齢労働者の安全衛生対策 / 食育実践優良法人2027の申請受付
執筆者
濱田 文恵(はまだ ふみえ)
日本鍼灸キャスティング株式会社 代表取締役。はり師・きゅう師(国家資格)、国際中医師、国際中医薬膳師。美容業界歴約10年、美容・鍼灸専門学校の非常勤講師。
Acu Castは、国家資格者である鍼灸師を、企業の健康づくりの現場に業務委託でキャスティングする事業を行っています。
